歯科医の日誌

子育てに奮闘しつつ、今更ながら思うこと

2009.3.2

  娘が生まれ1ヵ月余りが過ぎました。体重が1.5㎏増え、身長も8㎝伸び、すくすくと育っています。ただこの1ヵ月は、かなりハードでした。

 私達夫婦はともに両親がすでに亡くなっており、鹿児島出身ということもあり、夫婦二人っきりで乗り切ろうと決め、子育てにあたりました。産後の1ヵ月は、「妻を絶対安静にさせないといけない」という思いがあり、自分が出来ることは全てやりました。

 娘が生まれるまでは、診療を終え自宅に帰ると、風呂と食事の準備ができており、ゆっくりくつろいだ後、夜10時に就寝し、朝5時に起床するという生活を送っていました。しかしこの1ヵ月は、仕事を終えると近所に晩御飯の買い出しに行き、風呂に入っている間に洗濯物を洗い、娘を風呂に入れ、妻が母乳を飲ませている間に晩御飯の準備をし、食後は洗濯物を干し、気がつくと12時頃になっていて、朝は6時過ぎにやっと目が覚めるといった状態です。

 いつも妻が当たり前のようにやっていることを体験すると、本当に妻のありがたみが身にしみますし感謝の気持ちでいっぱいになります。また、毎日娘を見ていますと愛おしくてたまらないのですが、両
親も同じような気持ちで自分を育ててくれたのかと思うと、いつも両親に迷惑かけていた事を今更ながら反省します。

 私は中学・高校とも男子校で、女性のことはあまり分からなかったのですが、娘を持ってみると、当院
に来られる患者さんを含め、女性は全員誰かの娘さんなので、一人一人大切に接しないと失礼だなと思うようになりました。

妻の出産を任せた助産院長の「安心感」

2009.1.19

 昨年12月13日の朝、女の子が誕生しました。結婚12年目にしてようやく授かった子です。

 前日の午後に陣痛が始まりました。私が診療を終え夜8時に助産院に駆け付けると、かなり陣痛が強く苦しんでいました。こんな時、男性は何も出来ず、ひたすら手を握り背中をさすり、「早く赤ちゃんが無事に出てきてほしい」と祈るだけでした。

 妻は今年40歳ということもあり、なかなか赤ちゃんが下に降りて来ず朝7時になっても生まれないため、不安なまま診療に向かいました。9時頃、助産院から「このままでは母子ともに危ないので日赤病院にお願いします」と連絡があり、心配しながら診療を続けていましたが、10時半頃、「無事女の子が生まれました」と連絡がありました。当日は普段より忙しく、徹夜明けの上に前日から食事もしていませんでしたが、無事生まれたという安堵感と嬉しさから突然涙が溢れ号泣してしまいました。

 診療を終え一目散に病室に行くと、妻が授乳している最中でした。「本当によく頑張ったね。ありがとう」と、妻と赤ちゃんに声をかけました。赤ちゃんを抱きましたら今までの苦労が嘘のように穏やかな気持ちになり、顔が私に似て美人なため父親になった実感が湧きました。

 今回出産に立ち会って一番感じましたのは、お世話になった助産院の院長先生は、過去にかなりの数の赤ちゃんを取り上げておられる経験からか、妻と赤ちゃんの命はこの人に任せて大丈夫という「絶対的な安心感」があったことです。私もこの先生のように患者さんに安心感を与えられる歯科医を目指したいと思いました。また暖かく接していただいたスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。

矯正治療で「食べられないつらさ」を体験

2008.11.24

 私は「入れ歯作り」が大好きで、生涯入れ歯の治療に専念しようと思っておりました。ところが何故か今年に入り、噛み合わせが悪く歯の矯正(歯並びを治す)をしないと治らない患者さんが多くなりました。

 矯正の勉強は2年以上前からしていましたが、私にとって矯正治療を導入する事は「内科医」が「外科医」になるくらい大変なことで、必要があれば矯正治療の師匠である岡山の先生を紹介していましたが、愛媛の患者さんには遠すぎること、また師匠からも「自分の患者さんくらい自分で面倒を見られる腕を持て」と言われたことから、ついに腹を括って矯正治療を行うことにしました。その事を患者さんに話しましたところ、有難いことに20名以上の方が当院での治療を希望してくれました。

 早く矯正治療の腕を上げるためにどうしたらいいか悩んだ挙句、「まず自分が岡山の師匠に歯を矯正してもらおう」という結論に至り早速始めました。矯正治療は針金で歯を動かす程度のイメージしかなく気楽に考えておりましたが、いざ体験してみると想像以上に違和感があり、歯を締め付けるため硬いものが全く噛めず、最近は「とうふ料理」がメインです。妻も食事作りには苦労しているようです。

 何不自由なく食事が出来たのが突然食べられなくなると心から歯の大切さを実感しますし、入れ歯の調子が悪い患者さんは一生この苦労をするのかと考えると、短期間で快適な入れ歯を作らなければ、との思いを新たにしました。また今回の経験で、まともに食生活が出来ないと本人だけでなく周りの人も大変であることが分かり、今まで以上に真剣に歯科治療に取り組もうと考える良い機会となりました。

「歯医者好き」を増やすための心掛け

2008.10.20

 先日テレビで、大腸がんを内視鏡で治すという外科医の先生を紹介していました。一般的には、大腸がんが肛門に近い場合は大腸を全摘し人工肛門にするとの事で、患者さんはがんが治ってもその後の生活が大変とのことでした。先生の話の中に「目の前の病気を治すだけでなく、患者さんのその後の人生まで考え、自分の家族だったらという気持ちで最善の治療を施しなさい」という言葉がありました。

 歯科医として考えてみますと、世の中の多くの方が「歯医者嫌い」だと思います。なぜでしょう?まず、私たち歯科医が患者さんの言葉に真剣に耳を傾けなかったり、分かりやい説明が無いためだと思います。来院される殆どの患者さんはかなり緊張され平常心ではないので、なるべく私から声をかけリラックスしてもらうよう心掛けています。元々人と話すことが好きなので、患者さんと家族のような付き合
いができ、一人でも多くの方が「歯医者好き」になってもらえると嬉しいですね。

 特に子供さんは、自分の意志とは関係なく親に連れて来られたという状況で無理をすると、一生「歯医者嫌い」になってしまいます。私は「子供さんとも一人の人間として接する」ようにしていて、毎回しっかり会話をした上で本人の意思を尊重し、やる気になるまでとことん待ちます。私は、子供たちが当院に通うことで精神的にも大人になってくれることを望んでいます。

「孫が歯医者に行くのを楽しみにしているのが不思議だ」と思って来院された「おばあちゃん」は、とにかく歯医者嫌いで、今回は「清水の舞台から飛び降りる覚悟」で来院されたようで、まず慣れるまでは毎回「歯ブラシのみで歯の掃除」を行っています。お互い自然体で無理なく接することができるようになればいいなと思っています。

初めて行った産婦人科で感じたこと

2008.9.22

 妻が妊娠七か月に入り、生まれて初めて産婦人科に付き添って行きました。

 まさか43歳にして産婦人科に行けるとは思っておらず、色々な気づきと発見がありました。普段病院に行かないため、まず待合室に入って豪華なシャンデリアと重厚なソファーに圧倒されました。今時の病院はここまで来たかと感心しながら受付に行くと「1時間待ち」の札が置いてありました。予約をしていたのに「1時間待ち」とは納得がいかなかったので理由をたずねたところ、急なお産が入ったとのことでした。周りの妊婦さんたちを見ますと「明日は我が身」ということもあり、思いの外ゆったりソファーに座って雑誌を見ながらくつろいでいました。忙しい中スタッフの対応も気配りがあり丁寧で、先生も親切でゆっくり現状を説明していただき非常に安心感がありました。私は日頃予約の患者さんを待たせるのが嫌で、急患の患者さんが来院されるとどうしてもバタバタしてしまうのですが、今回の体験で、現状を受け入れ患者さん一人一人を大切に丁寧に診察する方がお互いにとって良いことに気付きました。

 待合室で待っていると、今にも生まれそうな妊婦さんが汗だくになりながら車いすで来院されました。その様子を見て夫婦共々出産の大変さを実感しつつ会計を済ませ帰ろうとした時、何気なく受付の横を見ると「1時間半待ち」の札がありました。

 先日、鹿児島から親戚の家族が一週間程遊びに来たのですが、6歳の女の子と3歳の男の子があまりにも元気すぎて体力の限界を感じました。親が24時間・年中無休で子供たちを育てているのを目の当たりにしますと「親になる覚悟」は必要ですね。

自分の歯で食べられる「当たり前」のしあわせ

2008.8.18

皆さんはじめまして。今回から月一回連載させていただきます歯医者の長谷川です。

「お口の中に歯がある事って当たり前ですか?」私は、元々おばあちゃん子でその影響からか「入れ歯作り」が大好きです。日々歯の無い患者さんを見させていただいておりますと、歯の大切さと、無い不便さを痛感します。「もし背中がかゆいとき、直接かくのと服の上からかくのとではどちらが気持ち良いですか?」当然ですが直接かく方が気持ち良いですよね。お口の中に置き換えますと、自分の歯で噛むというのが直接で、入れ歯で噛むというのが服の上ということになります。

昨日ある患者さんに「こんなに歯が痛むなら抜いてほしい」と言われました。歯はいっぱいあるから一本ぐらいなくてもあまり関係ないと思われるかもしれませんが、歯にはそれぞれ一本ずつ大切な役割があります。皆さん「右手が痛い時、右手が無くなれば良いと思いますか」。

最近はストレス社会のようでいろいろな不平・不満を耳にしますが、「何不自由なく食事が楽しめること」や「快適に日常生活を過ごせること」などは当たり前ですか?入れ歯が合わなかったり馴染めなかったりして日々の食事に苦労している患者さんや、歯の噛み合わせが悪いため体調を崩し日々の生活もまともにできない患者さんなどと接していますと、「何不自由なく食事が楽しめること」や「快適に日常生活を過ごせること」などの当たり前は、奇跡のような気がします。

かく言う私も仕事が忙しいとストレスを溜めますが、わざわざ来院されている患者さんや一緒に働いてくれるスタッフ、結婚十二年目にして子供が授かり妊娠六ヵ月にもかかわらず私を陰で支えてくれる妻にも日々感謝の気持ちを忘れずにいたいですね。